ファッツウォーラー(1904-1943)
1920年代ニューヨークで流行したハーレムピアノを代表する最も重要なピアノニストにファッツウォーラー(本名 トーマス・ライト・ウォーターThomas Wright Waller)がいます。
大食で130kgの巨漢であるため、 Fats(太っちょ)の愛称がつけられたトーマスは、同じくハーレムスタイルの偉大なピアニスト、ジェームスPジョンソンのもっとも優秀な弟子でもありました。
1904年5月21日牧師である父のエドワード・マーティンウォーラーと母アデリーヌロケットウォーラーの間に4人兄弟の末っ子としてニューヨークで生まれたトーマスは6歳でピアノを始め、14歳になった1918年にはタレントコンテストでジェームスPジョンソンの 「Carolina Shout」を演奏して優勝。
15歳でプロのピアニストとして劇場やキャバレーで演奏活動を始め、18歳になった1922年、「Birmingham Blues」と「Muscle Shoals Blues」の2曲入りシングルでオーケー・レコードからレコードデビューしました。
ピアニストとしては勿論、オルガン奏者・歌手・作曲家・作詞家としても一流で、更にそのおどけた個性的なキャラクターから、映画にも出演するなどマルチな才能の持ち主でした。
作曲家としてのトーマスは「Ain't Misbehavin'」「Honeysuckle Rose」など、今でもジャズのスタンダード曲として演奏される名曲を数多く作曲しましたが、ある日大食漢のウォーラーはハンバーガーショップで12皿のハンバーガーを平らげて代金が払えなくなり、そこに居合わせたフレッチャーヘンダーソン(ピアニストでバンドリーダー)とバンドのメンバーに、一皿につき1曲を提供するという約束で勘定を払ってもらい、フレッチャーヘンダーソンはウォーラーから数曲をハンバーガーの値段でバンドのためのすばらしい曲を提供されたという、彼らしいエピソードもあったそうです。
彼はその卓越したスウィング感で演奏されるピアノで、ハーレムスタイルの中でも彼独自のスタイルを築き上げ多くの演奏録音を残し、ルイ・アームストロングが出演したミュージカル『Hot Chocolates』の音楽を担当し、歴史に残る名曲を数多く作曲、映画出演や歌など精力的に活動しましたが、1943年12月、コンサート・ツアーの途中で肺炎になり、ミズーリ州カンザスシティに到着した乗車中の列車の中で39歳の若さで急死しました。
短い生涯でしたがファッツウォーラーは後にジャズの歴史の中で活躍するアートテイタムやカウント・ベイシー、またその後に続く偉大なジャズミュージシャン達に多大な影響を与えた、偉大なピアニストでソングライターでした。
ウォーラー作曲で今もスタンダード曲としてジャズミュージシャンに歌われ、演奏される"Ain't Misbehavin'"(浮気はやめた)ファッツウォーラー自身が映画出演し、歌とピアノの演奏をしています。この映像からも彼の陽気なキャラクターが垣間見えますね。
"Handful of Keys."ウォーラーの左手の素早いストライド奏法でスウィングするハーレムスタイルピアノの名演です。